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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2426号 判決 1976年11月10日

昭和五〇年(ネ)第二四二六号事件控訴人 昭和五〇年(ネ)第二四四三号事件被控訴人 (第一審原告) 金子すずゑ

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 坂根徳博

昭和五〇年(ネ)第二四二六号事件被控訴人 昭和五〇年(ネ)第二四四三号事件控訴人 (第一審被告) 秦嘉宣

昭和五〇年(ネ)第二四二六号事件被控訴人 昭和五〇年(ネ)第二四四三号事件控訴人 (第一審被告) 秦文造

右両名訴訟代理人弁護士 鵜沢重次郎

主文

第一審原告金子すずゑ、同金子俊男、同金子文男の本件各控訴を棄却する。

第一審被告らの第一審原告金子つげに対する本件各控訴を棄却する。

原判決を次のとおり変更する。

第一審被告らは各自第一審原告金子すずゑに対し金一、八五五、四七九円、同金子俊男、同金子文男に対し各金一、三九五、四七九円、同金子つげに対し金六六〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四九年四月一日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一・二審を通じてこれを六分し、その五を第一審原告ら、その一を第一審被告らの各負担とする。

この判決の第四項は仮りに執行することができる。

事実

第一審原告ら訴訟代理人は、当審において請求を拡張し、昭和五〇年(ネ)第二四二六号事件につき、「原判決を次のとおり変更する。第一審被告らは各自第一審原告金子すずゑに対し金一、一四三万円、同金子俊男、同金子文男に対し各金九五九万円、同金子つげに対し金一七二万円、およびこれらに対する昭和四九年四月一日から完済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、昭和五〇年(ネ)第二四四三号事件につき、第一審被告らの各控訴を棄却するとの判決を求めた。

第一審被告ら訴訟代理人は、昭和五〇年(ネ)第二四二六号事件につき、当審における請求拡張部分を含めて第一審原告らの控訴を棄却するとの判決を、昭和五〇年(ネ)第二四四三号事件につき、「原判決中第一審被告ら敗訴部分を取り消す。第一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠関係は、次に付加訂正するほかは、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(第一審原告らの主張)

第一審原告らの損害の主張(原判決三枚目裏六行目以下五枚目表一一行目まで)を次のように改める。

(一)  収入損 金二、五〇三万円

別表(説明書付)記載のとおり

(二)  慰藉料 金四五〇万円

死亡者本人金子睦夫が四二才で死亡し、収入生活を除いた一般生活上、それから先生涯にわたる生存の幸福を喪失した慰藉料は四五〇万円を下らない。

(三)  合計 金二、九五三万円

4、第一審原告らの相続

第一審原告金子すずゑは亡睦夫の妻として右睦夫の損害の三分の一である九八五万円を、同金子俊男、同文男は亡睦夫の子としてそれぞれ三分の一宛の各九八四万円の各損害賠償請求権を相続取得した。

5、第一審原告らの固有の慰藉料

(一)  第一審原告金子すずゑ 金四〇〇万円

同原告はかけがえのない配偶者を失い、今後長い生涯を未亡人として淋しい毎日を送らねばならず、この精神的苦痛の慰藉料は四〇〇万円を下らない。

(二)  第一審原告金子俊男、同文男各金二五〇万円

父睦夫の死亡当時第一審原告俊男は一二才、同文男は八才であり、成年に達するまでの長い養育期間を含め、幼少にして父を失った精神的苦痛の慰藉料は各二五〇万円を下らない。

(三)  第一審原告金子つげ 金一五〇万円

第一審原告つげは、亡睦夫の母であり、七一才の老令となってから我子に先立たれたもので、精神的苦痛の慰藉料は一五〇万円を下らない。

6、葬式費用 金三五万円

第一審原告すずゑは亡夫の葬儀を行い、昭和四九年三月までにその費用に三五万円を支出した。

7、保険金等の受領 金一、二二六万円

第一審原告らは本件事故による損害の填補として、第一審被告らから金二二六万円、強制保険金一、〇〇〇万円の支払いを受け、これを第一審原告すずゑが四二六万円、同俊男、同文男が各四〇〇万円宛それぞれの損害に充当した。

8、弁護士費用 第一審原告すずゑ、金一四九万円、同俊男、同文男各金一二五万円、同つげ金二二万円

第一審原告らは、それぞれ弁護士を訴訟代理人に委任し、本件損害賠償請求に関する第一審および控訴審の訴訟を遂行させることにし、控訴審認容額の各二五パーセント相当額を、それぞれ弁護士費用ならびに報酬として支払う約束をしたが、これは本件交通事故について刑事々件が不起訴となった関係上、一般の場合に比し若干高率としたものであるから、これを事故当時の現価として一五%に引き直すこととし、第一審原告すずゑは請求額九九四万円、同俊男、同文男は請求額各八三四万円、同つげは請求額一五〇万円に対する各一五%の割合による前記各損害を蒙ったものというべきである。

9、むすび

よって、第一審被告らに対して各自、第一審原告すずゑは金一、一四三万円、同俊男、同文男は各金九五九万円、同つげは金一七二万円およびこれに対する本件不法行為後である昭和四九年四月一日から各支払済みまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(第一審被告らの主張)

第一審原告らの当審における請求拡張についての損害額算定の基礎はすべて争う。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一、昭和四八年一二月一五日午後五時三〇分ころ、千葉県茂原市真名一四〇五番地真名団地入口先道路丁字路交差点において、訴外亡金子睦夫運転の軽四輪乗用車と、第一審被告秦嘉宣運転の普通乗用車とが衝突し、このため右睦夫は負傷して翌一二月一六日死亡するに至った事実は当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫を総合すると

1、本件事故現場は、県道千葉茂原線と、真名団地方面に通ずる道路とが丁字型に交差する交通整理の行われていない県道上で、車道は幅員六・八メートルのアスファルト舗装で、中央線は白線で区分された平坦直線の見通しも良好な場所であるが、付近に街路灯等の照明はなく、本件事故当時は曇天で暗かったこと

2、第一審被告秦嘉宣は、トヨタコロナマークⅡ四五年型乗用車(以下単に加害車という)を運転し、千葉市内から一宮町に向かい、加害車輛の前照灯を点けて時速約一〇〇キロメートルで本件事故現場付近に差しかかり、前方約四九メートルの地点に亡金子睦夫運転のスバル軽四輪乗用車(以下単に被害車という)が前照灯をつけて対向進行してくるのを発見し、次いで前方約三二メートルの地点で被害車が右折合図をしながら真名団地方面に通ずる道路に右折しようと道路中心線に寄ってくるのを見たものの、被害車は加害車輛の通過を待って一時停止してくれるものと軽信し、被害車の動静に注意しないで前記速度のままなおも進行を続けたところ、被害車が停止することなく右折進行して自車の進路上に出てきたため、避けるいとまもないままに、同車の左前部に自車右前部を衝突させるに至ったこと

3、他方、亡睦夫は、右交差点を真名団地方面に右折進行しようとして、衝突地点の約一〇メートル手前から右折合図をしながら道路中心線寄りに進行をつづけたが、その際加害車が前記速度で対向進行してきており、そのまま運転を継続すれば、同車と衝突する危険のあることを知りながら、一時停止しないでも同車の到達前に右折横断し得るものと軽信し、そのまま右折進行をつづけて対向車線上に進出したため、直進してきた加害車に衝突するに至ったこと

以上の各事実を認定することができる。≪証拠判断省略≫

そうしてみると、第一審被告秦嘉宣が加害車を運転して本件事故現場交差点を通行するに際し、法定速度を遵守することは勿論、対向車線上を右折合図を出しながら右折しようとしていた被害車の動静に充分注意し、同車の動向に適切に対応できるように適宜減速するなどし、また亡睦夫も加害車の動静、速度などに注意し、右折前に一時停止して加害車をやり過ごす措置をとれば、相互に本件事故発生を未然に防止し得たものというべく、結局本件事故は、右両名の運転上の過失によって生じたものというべきである。

したがって、第一審被告らの免責の主張は、そのほかのことを判断するまでもなく理由がないから、これを採用することはできない。

二、第一審被告秦文造が加害車を所有し、これを子である同嘉宣に使用させていたものであることは当事者間に争いがないから、第一審被告らは各自、本件事故によって生じた亡睦夫らの損害を賠償する責任のあることは明らかである。

三、亡睦夫が本件事故当時満四二才の男性で、昭和三九年以降訴外株式会社東洋管工製作所千葉出張所に勤務し、訴外三井東圧化学株式会社千葉工業所に出向して現場作業班長として働らいていたこと、第一審原告金子すずゑは亡睦夫の妻、同俊男、同文男は同人の子、同つげは同人の母であること、はいずれも当事者間に争いがない。

そこで、本件事故により、亡睦夫および第一審原告らの蒙った損害について判断する。

(一)  ≪証拠省略≫を総合すると

1、亡睦夫は、本件事故当時まで約九年間前記会社に勤務し、昭和四八年一二月ころは、少なくとも年間一、一〇四、四五六円(死亡前平均収入を得ていた昭和四八年一月から同年一〇月までの間の賃金を基準に算出した年間賃金八六九、五五六円と同年七月、一二月に支給された賞与二三四、九〇〇円との合算額)の収入を得ていたこと、

2、右会社は、昭和四九年、同五〇年の各四月にそれぞれ一五パーセント、一二パーセントのベースアップが行われたほか、亡睦夫は昭和四九年一〇月以降は一か月金一〇、〇〇〇円程度の役職手当が加給される予定であったこと、

3、右会社は、定年制がなかったため、亡睦夫は、本件事故にあわなければ、六五才まで稼働するものとして今後二三年間にわたり同社に勤務して収益をあげられることが予測できたものであり、これら諸事情を考慮すると、亡睦夫は

(1) 昭和四九年中に金一、二五八、七〇七円

(2) 昭和五〇年以降年間金一、五〇四、四二五円

を下らない収入を得ることが可能であつたこと

以上の各事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで、亡睦夫の逸失利益を、稼働可能年数昭和四九年一月から満二三年間、その間に要する生活費を五〇パーセントと見込み、ライプニッツ式計算法により、年五分の中間利息を控除して現価を算出すると金一〇、七四五、五四四円となり、同額の損害を蒙ったこととなる。

そして、本件事故によって亡睦夫の蒙った精神的苦痛の慰藉料額は、本件事故の態様、同人の地位、職業、その他諸般の事情を斟酌すれば金四、五〇〇、〇〇〇円とするのが相当である。

したがって、亡睦夫は、合計金一五、二四五、五四四円の損害を蒙ったものというべきところ、第一審原告すずゑ、同俊男、同文男が各その三分の一宛の金五、〇八一、八四八円をそれぞれ相続取得したこととなる。

(二)  第一審原告らが、それぞれ最愛の夫又は父、子を失った精神的苦痛が甚大であることはいうまでもないところであるから、それぞれの身分関係その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮し、その苦痛を慰藉するため、次のとおり慰藉料を定めるのが相当である。

1、第一審原告すずゑ 金二、〇〇〇、〇〇〇円

2、第一審原告俊男、同文男 各金一、五〇〇、〇〇〇円

3、第一審原告つげ 金七五〇、〇〇〇円

(三)  ≪証拠省略≫によると、亡睦夫の葬儀費用として金三〇〇、〇〇〇円ないし四〇〇、〇〇〇円を要し、これを同原告が支出した事実が認められるので、そのうち金三五〇、〇〇〇円を本件事故と因果関係ある損害とするのが相当である。

(四)  したがって第一審原告らは、それぞれ次の損害を蒙ったこととなる。

1、第一審原告すずゑ 金七、四三一、八四八円

2、第一審原告俊男、同文男 各金六、五八一、八四八円

3、第一審原告つげ 金七五〇、〇〇〇円

四、本件事故発生については、前認定のように、亡睦夫の過失もその原因となっているものであり、第一審被告嘉宣の過失内容その他事故の態様等を考慮すれば、亡睦夫の過失割合を、全過失のうち二〇パーセントとするのを相当と認める。

そこで、第一審原告らの蒙った損害額から約二割の過失相殺をして、減額すると、次のように算出され、同額の損害賠償請求権を取得したものというべきである。

1、第一審原告すずゑ 金五、九四五、四七九円

2、第一審原告俊男、同文男 各金五、二六五、四七九円

3、第一審原告つげ 金六〇〇、〇〇〇円

五、第一審原告すずゑ、同俊男、同文男が、第一審被告らおよび強制保険から、合計金一二、二六〇、〇〇〇円を受領し、これを第一審原告すずゑが金四、二六〇、〇〇〇円、同俊男、同文男が各金四、〇〇〇、〇〇〇円宛取得し、損害の一部に充当したことは当事者間に争いがないから、これを前記損害額から控除すると、第一審被告らに請求し得べき損害賠償額は次のとおりとなる。

1、第一審原告すずゑ 金一、六八五、四七九円

2、第一審原告俊男、同文男 各金一、二六五、四七九円

3、第一審原告つげ 金六〇〇、〇〇〇円

六、≪証拠省略≫によれば、第一審原告らは、本件訴訟の提起、第一、二審の訴訟遂行を弁護士坂根徳博に委任し、その報酬として成功額の二五パーセントおよび費用を支払うことを約した事実を認めることができるが、本件事案の難易その他の事情を考慮し、そのうち第一審原告らが支払いを求め得る前記認定額の約一割を、本件事故と相当因果関係ある損害と認めて第一審被告らに負担させるのが相当であるから、これをそれぞれ前記損害額に加算すると次のようになる。

1、第一審原告すずゑ 金一、八五五、四七九円

2、第一審原告俊男、同文男 各金一、三九五、四七九円

3、第一審原告つげ 金六六〇、〇〇〇円

七、よって、第一審原告らの本訴請求は、第一審被告らに各自、第一審原告すずゑに対し金一、八五五、四七九円、同俊男、同文男に対し各金一、三九五、四七九円、同つげに対し金六六〇、〇〇〇円および右各金額に対する本件不法行為後である昭和四九年四月一日から各支払済みに至るまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却すべきであり、これと異る原判決は不当であって、第一審原告すずゑ、同俊男、同文男らの本件各控訴は理由がなく、第一審被告らの同原告らに対する本件各控訴は一部理由があるから、同原告らの本件各控訴は当審における請求拡張部分を含めてこれを棄却したうえ原判決を変更し、第一審原告つげの本件控訴は一部理由があるから同原告に関する原判決を変更し、第一審被告らの同原告に対する本件各控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江尻美雄一 裁判官 滝田薫 桜井敏雄)

<以下省略>

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